広島県福山市にある母屋の再生です。
この古民家は養蚕業兼住宅として建てられ、養蚕業で利用していた大きな天井裏を有していました。
1階の階高が高すぎること、2階の天井が低すぎることに加えて、農家住宅によく見られる来客用の座敷や玄関は未改修のまま、台所や個室、離れの浴室などが母屋に隣接して増築され、生活動線は極めて複雑化していました。
子と孫世代が戻り、快適な3世代同居を実現するために、動線を整理・短縮化させた上で、外観に風格を与え、耐震性を向上させる抜本的な再生が求められました。
ガラス戸が一般的ではなかった時代、農家住宅は板戸(雨戸)を開け放つと縁側が吹きさらしの外廊下となるのが通常でした。
後年、その板戸を木製ガラス戸に変えることで、縁側は常時室内化されることになりますが、防犯性と防風性能が向上する一方、板戸で使用していた1本レールにそのままアルミサッシをはめ込み、母屋としての風格を失ってしまった例や、網戸を付けて開け放つことが難しくなることから、縁側に腰掛けてのご近所付き合いも縁遠くなってしまいまった例を多く見かけるようになりました。
今回の改築では、旧家の風格を守り、縁側を近隣に開いた交流の場と考え、本格的に3本のレールを備えて自由に開閉できる引違いの木製建具と網戸を取り付けました。
玄関土間は来客を迎え入れるスペースとして整え、その奥に、耐震格子壁と格子戸でゆるやかに仕切られた、光や風が自由に通り抜ける家族のための内玄関を隣接させました。
蚕部屋として利用されていた屋根裏は、日本古来の和小屋構造に西洋のトラス技術を取り入れた折衷様式が隠されていました。二間続きの2階の和室は、既存の床の間を残しつつ、この特徴的な小屋組みを見上げることのできる新旧、和洋のハイブリット空間へと再生しました。
農家住宅の母屋再生